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梅毒・性感染症:【医師監修】「しこり」「発疹」の症状に気づいたら検査を!梅毒かも?!

公開日: 2017-06-12
更新日: 2017-06-12
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「梅毒」と聞いても、それがどんな病気なのかわからない人も多いのではないでしょうか?
梅毒とは、主に性行為によって感染する性感染症です。感染すると「しこり」や「赤い発疹」の症状などが現れます。
現在では、早期に治療することで完治できますが、治療が遅れたり、放置してしまうと、脳や臓器、神経などに重大な合併症が生じることがあります。
抗生物質のない時代には、死に至ることも珍しくない病気でした。

医師紹介

大西 真由美院長
筑波大学医学部卒
東京大学大学院 医学部修了
医学博士
日本内科学会認定 総合内科専門医
日本血液学会認定 血液専門医
認定産業医

20代から30代の女性に梅毒患者が急増

梅毒患者は、2011年以降増加傾向にあります。

2012年までは1,000名に満たなかった患者数ですが、それ以降は急激に増え続け、2016年は4,500名を超える患者数が報告されるまでになっています。

梅毒の男女別報告患者数の年次推移
出典:厚生労働省ホームページ 「性感染症報告数」(厚生労働省)を加工して作成

さらに、もともとは男性の感染者が多い梅毒ですが、2014年以降は女性の感染者も大幅に増えています。
特に、男性は20代から50代、女性は20代から30代で患者数が急増しています。

梅毒の年齢別報告患者数
出典:厚生労働省ホームページ 「性感染症報告数」(厚生労働省)を加工して作成

梅毒患者の増加原因は定かではありませんが、推定感染経路は、2013年までは男性同士の性的接触からの感染が多いとされていたところ、2014年以降は男女ともに異性間性的接触からの感染が増加傾向にあります。

国立感染症研究所の感染症発生動向調査によると、2017年も引き続き患者報告数は増加傾向にあります。

■参考サイト
東京都感染症センター
国立感染症研究所「感染症発生動向調査」

性行為が主な感染経路

ベッドの中のカップルの足の裏

梅毒は、「梅毒トレポネーマ」と」いう細菌に感染することで発症します。

感染のほとんどが、性行為によるものです。梅毒に感染している部分と、粘膜や皮膚が直接接触することで感染します。

具体的には:
通常の性行為(性器と性器)、アナルセックス(性器と肛門)、オーラルセックス(性器と口) など

感染してからの3年間は、特に感染力が強いとされています。

梅毒とHIV/ AIDS(エイズ)は重複感染しやすい

HIV/ AIDS(エイズ)も梅毒と同様、主に性行為によって感染します。

梅毒に感染していると、HIV/AIDS(エイズ)への感染リスクが高くなり、梅毒とHIV/AIDS(エイズ)の両方に感染(重複感染)していることは珍しいことではありません。

特に、梅毒によって性器に潰瘍性の病変(深い傷)がある場合は、感染確率が高いとされています。

そのため、梅毒の早期発見・早期治療は、HIV/AIDS(エイズ)の感染拡大防止にもつながります。

また、梅毒に感染している または 感染している可能性がある場合は、HIV検査を受けることも積極的に検討しましょう。

梅毒は何度でもかかります!

梅毒は感染しても、体内に完全な免疫(抗体)ができることはありません

一度梅毒にかかったからといって、再感染しないということではありません。

梅毒の名前の由来

梅毒の症状である赤い発疹が楊梅(ようばい/ヤマモモ)の果実に似ていることから楊梅瘡(ようばいそう)と呼ばれ、その後、梅瘡(ばいそう)、梅毒(ばいどく)と変化していきました。

治療薬が発見される昭和初期までは、治療方法がなく、何年もかけて体を蝕み、最終的には死に至る梅毒は不治の病とされていました。

現在では、早期に治療をすることで完治できます。

症状は感染後の経過期間によって異なる

カレンダー上の砂時計

梅毒は、感染してからの経過期間と症状によって、第1期から第4期に分けられます。

期間によっては、あらわれていた症状が消えたり、なんの症状もない期間がありますが、これで梅毒が治ったと判断することはできません。梅毒は、無症状の状態で進行し続けることがあるので、注意が必要です。

症状がなくなったからといって安心せず、気になる症状が一度でも出たら医療機関を受診し、完治の診断が出るまで、医師の指示を守って治療を続けることが重要です。

梅毒の症状-完治するためには、第2期までに治療することが重要

梅毒は、早期に治療することで完治できます。

具体的には、第2期までに治療を開始すれば完治して、障害が残るようなこともありません。

しかし、第3期以降まで進行してしまうと、梅毒自体は治すことができますが、崩れてしまった外観や、神経や臓器などの機能障害は治療をしても完全に感染前の状態に戻すことはできません

そのため、少しでも気になる症状が出たら、早期に医療機関を受診し、治療を開始することが大切です。

現在は、第2期までに治療が開始できることが多く、第3期以降の感染者はほとんどみられません。

感染後の期間と症状

【第1期】 感染後約3週間まで

○主な症状や経過

1)無症状
感染後しばらくは症状がありません。

2)しこり
感染から約3週間経過すると、感染した部位(性器周辺、肛門など)に小豆大で軟骨のような硬さのしこりができます。まれに、口内や唇、手や指にできることもあります。

3)リンパ節の腫れ
しこりがあらわれた後、やや遅れて、足の付け根部分(鼠蹊部)のリンパ節が硬く腫れることがあります。

しこりもリンパ節の張りも痛みがないことが多く、治療をしなくても2~3週間で自然に消え、その後、約3ヶ月後の第2期まで無症状の期間が続きます

症状が消え、無症状になっても、梅毒が治ったと判断はできません。

この時期は感染力の強い時期です。症状も自然に消え、無症状の期間が続くなど、医療機関の受診を迷う時期ですが、少しでも気になる症状があった場合は、医療機関を受診し検査をしましょう。

【第2期】 感染後約3ヶ月~3年

○主な症状や経過
第1期で治療をせず、3ヶ月以上経過すると、梅毒トレポネーマが血液に入り、血管やリンパ管を通って全身に運ばれるため、体全体に症状があらわれるようになります。

1) 発疹
手のひらや足の裏、顔面を含む全身に、さまざまな色・形状の発疹(丘疹、バラ疹など)があらわれます。痛みやかゆみはありません。

丘疹:
5mm~10mm程度の赤褐色から赤胴色の湿疹

バラ疹:
5mm~20mm程度の薔薇の花びらに似た淡い赤い発疹


2) 全身症状、その他の症状
全身のリンパ節が腫れたり、発熱、倦怠感、関節痛や脱毛など、さまざまな症状があらわれることがあります。

これらの症状は、第1期と同様に、治療をしなくても数週間から数ヶ月で自然に消えていきます

第2期は、3ヶ月~3年の期間中、上記のような症状がいくつか混ざってあらわれては、消え、またあらわれるというように、再発を繰り返すことがあります。

この時期も引き続き感染力の強い時期です。また、症状が消えた状態が続いても、第1期同様、梅毒が治ったと判断することはできません。

この時期までに適切な治療を受けられないと、第3期、第4期で、臓器や脳、神経にまで影響が及び、治療をしても完全に改善することは難しくなります。

【第3期】 感染後約3年~10年

主な症状や経過
治療をせず、3年以上経過すると以下のような症状があらわれます。

1) ゴム種
皮膚や筋肉、内臓、骨などに、ゴムのような弾力のある腫瘍(ゴム腫)ができ、症状が進行すると、増殖しながら組織を破壊していきます。

現在は、第2期までに治療を開始できることが多く、第3期まで進行するケースはほとんどみられません。

【第4期】 感染後10年以降

○主な症状や経過
感染から10年が経過すると、多くの臓器に腫瘍が発生したり、脳や神経、血管などにまで影響が及ぶことで、以下のような症状があらわれます。

・大動脈炎
・大動脈瘤
・脊髄が委縮することによる電撃痛、歩行障害をはじめとするさまざまな機能障害(脊髄癆)
・認知障害、記憶障害、全身の麻痺(進行麻痺)
など

現在は、第2期までに治療を開始できることが多く、第4期まで進行するケースはほとんどみられません。

梅毒の検査方法-しこりや発疹の症状があらわれたら検査を受けましょう!

注射器のイメージ

梅毒に感染しているかどうかは、血液検査(抗体検査)でわかります。

感染してから最初の数週間は、検査をしても陰性になってしまうことがあるため、感染から3週間程度経ってから検査をする必要があります。

しこりや発疹などの症状が出ている場合は、感染から3週間以上経っていることがほとんどであるため、すぐに医療機関を受診して検査を受けましょう。

受診する際には、正確な診断や検査を受けるタイミングを判断するため、性行為をした時期や予防の有無(コンドームの使用など)について医師に伝えましょう。

また、自分が感染していた(感染の疑いがある)場合は、性行為をした相手も一緒に検査を受けるようにしましょう。

特に、感染力が強い第1期、2期と診断された場合は、90日以内に性行為をした相手も検査と経過観察をすることが推奨されます。

検査は、ほとんどの医療機関で受けられます。

推奨される診療科:
性病科 / 泌尿器科(男性) / 産婦人科・婦人科(女性) / 内科 / 皮膚科 など

また、全国の保健センターや保健所、自治体の施設でも、無料・匿名で検査を実施している場合があります。

詳細については、ご自身がお住いの地域の保健センターや保健所、市区役所に問い合わせてみましょう。

治療は抗生物質の服用

薬と水の入ったグラス

基本的には、処方された抗生物質を服用する通院治療です。

ペニシリン系の抗生物質が使われます。この抗生物質にアレルギーがある場合などは、他の抗生物質が使われます。

症状によって異なりますが、薬の服用期間はおおよそ以下の通りです。


第1期 : 2~ 4週間
第2期 : 4~ 8週間
第3期以降 : 8~ 12週間


治療中の性行為は感染を広げてしまう可能性があるため、医師から完治の診断が出るまで、性行為全般を控えるようにしましょう。

また、前述のとおり、梅毒は一時的に無症状の期間があったり、無症状のまま進行することがあります。薬を飲みはじめて、症状が改善したからと自己判断で通院や薬の服用をやめてしまうことのないようにしましょう。

完治の診断が出るまで、医師の指示を守って、通院と薬の服用を続けることが大切です。

100%の予防法はない!コンドームの使用、気になる症状があるときは性行為を控えて!

ドクターストップをする医師

梅毒への感染を100%の予防する方法はありません。完全ではありませんが、有効な予防法には以下のようなものがあります。

感染者、感染の疑いがある相手との性行為は避ける
第1期、第2期は感染力が強いため、特に注意が必要です。しこりや発疹などの気になる症状がある場合も、性行為は控えましょう。

コンドームを使用する
感染した部位が直接粘膜に触れることを防ぐため、ある程度の予防効果が期待できます。

しかし、コンドームで覆われない部分が感染している場合は、その部分との接触で感染してしまう可能性があります。

不特定多数と性行為をしない
梅毒に関わらず、さまざまな性感染症に感染するリスクがあります。

など

妊娠中に梅毒に感染していたらどうなる?

椅子に座る妊婦

妊娠中に梅毒に感染したり、梅毒に感染している状態で妊娠した場合、胎盤を通して母子感染し、胎児が「先天性梅毒」になってしまうことがあります。

また、流産や早産、胎児の発育不全、新生児死亡を起こす可能性もあります。

現在は、妊娠初期の妊婦健診に、梅毒の検査が含まれているため、既に感染している場合は早期に治療を開始することができます。

ただし、検査後に梅毒に感染する可能性もあるため、妊娠中の性行為には十分に注意しましょう。

妊娠中の梅毒も、早期に治療することにより母親の梅毒も完治し、ほとんどの場合、生まれてくる子供への感染(先天性梅毒)を防ぐことができます。

母子感染する可能性はどれくらい?

母親の梅毒が、感染力の高い第1期、第2期の場合、母子感染するリスクは、約60~80%とされています。無症状の状態、第3期以降だと感染はしづらくなります。

胎盤を通して胎児に感染するため、胎盤が完成する妊娠中期以降は感染する可能性が高くなり、感染した胎児の40%は死産か新生児死亡するとされています。

梅毒に感染していることがわかったらどうする?

梅毒の母子感染は胎盤を通して感染するため、胎盤が完成に近づく妊娠4ヶ月頃までに、早期に抗生物質による治療を開始します。

胎盤が完成した後に母親の感染がわかった場合は、母親が抗生物質を服用することで、胎盤を通して胎児も同時に治療することができます。

先天性梅毒とは?

胎盤を通して母子感染した梅毒です。天性梅毒は、症状があらわれる時期によって2種類に分けられます。

≪早期先天梅毒≫

生後2年以内に症状があらわれる先天性梅毒です。生後3ヶ月以内に症状があらわれることが一般的です。

主な症状

・皮膚発疹
・発育不全
・全身のリンパ節の腫れ
・肝臓や脾臓の肥大化
など

≪晩期先天梅毒≫

生後2年以降に症状があらわれます。「ハッチンソン3徴候」と呼ばれる3つの症状が特徴的です。

主な症状

ハッチンソン3徴候
・角膜実質炎
・内耳性難聴
・ハッチンソン歯(歯の形態異常)
など

「性器周辺のしこり」「手足・体の発疹」気になる症状があれば医療機関の受診を!

聴診器と家のミニチュア

前述の通り、梅毒の症状は第2期までは、症状が自然に消えてしまったり、しこりや発疹にも痛みやかゆみなどがないことが多く、異常に気付いていても、やり過ごしてしまいがちかもしれません。

しかし、「痛くもかゆくもないから大丈夫」「しこりも発疹も消えたから大丈夫」と放置してしまうと、知らぬ間にパートナーや性行為の相手へと感染を拡大させ、自身の病状もどんどん進行してしまうこともあります。

ここまでで、何かひとつでもあてはまる症状がある または 過去に症状があった場合は、医療機関を受診して検査を受けましょう。

早い段階で梅毒に気づき、早期に治療を開始して完治させること、感染の拡大を防ぐことが大切です。

※当コラムは東京内科医会のご協力によって作成されています。

東京内科医会は、常に最新の医学知識を学び、最良の医療を実践する魅力を持った何かを主体に、診療を行っている医師の集まりです。